コロナ禍で実施した建設特定技能の外国人人材の雇用手順と費用

「建設工事会社で特定技能の外国人人材を雇用したいんだけどどうしたら良いの?」

建設業の許可を受けている事や建設キャリアアップシステムへの登録が済んでいるなどの諸条件が必要になります。
まだ特定技能の外国人を受け入れたことがない場合は、以下のような条件を事前に満たしておきましょう。

建設工事会社で特定技能の外国人を受け入れるために満たしておく条件
  • 建設業の許可を受けている
  • 建設キャリアアップシステムに登録している
  • JAC(建設技能人材機構)またはJACを構成する建設業団体に所属している
  • 建設特定技能受入計画の申請日前5年以内またはその申請日以後に建設業法に基づく処分を受けていない
  • 国内人材確保の取り組みを行っている
  • 1号特定技能外国人に対して同等の技能を有する日本人と同等額以上の報酬を支払い、技能習熟に応じて昇給を行うとともにその旨を特定技能雇用契約に明記している
  • 1号特定技能外国人に対して特定技能雇用契約を締結するまでの間に当該契約にかかる重要事項について、その外国人が十分に理解できる言語で説明している
  • 1号特定技能外国人の受け入れを開始、もしくは終了または受け入れの継続が困難になったときは国土交通大臣に報告をする
  • 1号特定技能外国人を建設キャリアアップシステムに登録する
  • 1号特定技能外国人が従事する建設工事において申請者が下請負人である場合は発注者から直接当該工事を請け負った建設業者の指導に従う
  • 1号特定技能外国人の総数と外国人建設就労者の総数の合計が常勤の職員の総数を超えない
  • 1号特定技能外国人に対して国土交通大臣が指定する講習を受講させる

技能実習から特定技能に移行する外国人がいる場合は協同組合側で手続きのフォローがあると思いますが、そうでない場合は自力もしくは外国人人材紹介会社に協力してもらいながら必要な条件をクリアしていくことになります。
私が勤めている会社では技能実習からの特定技能移行ではなかったため、外国人人材紹介会社に協力してもらいながら手続きを進めました。

上記の条件を満たしたことを証明する書類として最終的に提出した資料は次の通りです。

外国人人材紹介会社に提出した資料

国土交通省に建設特定技能受入計画の認定をしていただくために、以下の資料を人材紹介会社に提出しました。

外国人人材紹介会社に提出した資料
  • 雇用条件書
  • 登記事項証明書
  • 建設業許可証
  • 常勤職員数がわかる書類
  • 建設キャリアアップシステムの事業者IDがわかる書類
  • 建設キャリアアップシステムにすでに登録している技能実習生のIDがわかる書類
  • JACとの加入状況がわかる書類
  • ハローワークに提出している求人票
  • 日本人と同等額以上の賃金条件であることを説明できる書類
  • 日本人の賃金台帳
  • 日本人の経歴書
  • 時間外労働・休日労働に関する協定書
  • 変形労働時間にかかる協定書、協定届、年間カレンダー
  • 建設特定技能受入計画の代理申請委任状

雇用条件書については出入国在留管理庁でダウンロードできる参考様式1-6の雇用条件書を参考に記入した書類を提出しました。
登記事項証明書については法務局で取得できる履歴事項全部証明書(取得から3か月以内の原本)を提出しました。

建設業許可証については一般建設業の許可について(通知)のコピーを提出しました。
常勤職員数がわかる書類として、健康保険・厚生年金保険標準賞与額決定通知書を提出しました。

建設キャリアアップシステムの事業者IDがわかる書類として、建設キャリアアップシステムにログイン⇒510_閲覧⇒10_自社情報で表示される事業者IDのスクリーンショットを提出しました。
建設キャリアアップシステムにすでに登録している技能実習生のIDがわかる書類として、建設キャリアアップシステムIDカードのスキャンデータを提出しました。

JACとの加入状況がわかる書類として、建設技能人材機構(JAC)入会のご案内に記載されている正会員団体に所属しているそれぞれの都道府県の組合に入会の申し込みしてから入会の許可をいただき、数日後に発行された組合員証明書を提出しました。
ハローワークに提出している求人票として、元々ハローワークに出していた古い求人票を更新して新たに発行された求人票を提出しました。

日本人と同等額以上の賃金条件であることを説明できる書類として、別の人材紹介会社に提出した日本人向けの雇用条件書を提出しました。
日本人の賃金台帳として、今回募集する外国人人材の賃金条件に一番近くて雇用期間が1年以上経過した日本人の1年間の賃金台帳を提出しました。

日本人の経歴書として、最近入社した日本人の履歴書を提出しました。
時間外労働・休日労働に関する協定書として、1年以内に労働基準監督署に提出した36協定のコピーを提出しました。

変形労働時間にかかる協定書、協定届、年間カレンダーについても、1年以内に労働基準監督署に提出したそれぞれの書類のコピーを提出しました。
建設特定技能受入計画の代理申請委任状については、人材紹介会社が専属契約している行政書士のかたに作成していただいた委任状に捺印をして返送しました。

特定技能の外国人人材募集から雇用までの流れ

この記事を執筆している2022年1月26日時点の状況ですが、私が勤めている会社では新型コロナウィルス感染症の影響によって新規の技能実習生が来日する目途が立たないので、すでに日本に滞在している卒業見込みの留学生や何かしらの理由で特定活動になっている外国人を対象に新規雇用を進めました。
建設作業員としての労働力を求めているので、軽作業が可能な特定技能を取得してくれる人を募集しました。

外国人人材の募集の流れ
  1. 外国人人材紹介会社に取り急ぎ建設業の許可証と労働内容と雇用条件書を提出して人材募集をしてもらう。
  2. 応募してきていただいた方の面接をして詳しい労務内容の説明をする。
  3. 特定技能の条件を満たしていない人に対しては、1年以内に技能評価試験を受けて合格しなければその後の雇用を保証することは出来ないことを伝える。
  4. お互いに問題がなければ雇用契約をする。

特定活動で許可されている在留期間は長くても1年程度なので、5年間在留可能な特定技能への変更を目指してもらうことになります。
すでに特定技能への変更要件を満たしているのであれば不要ですが、そうでないかたは一定の技能評価試験に合格してもらう必要があります。

建設分野の特定技能で許可されている職種
  1. 型枠施工
  2. 左官
  3. コンクリート圧送
  4. トンネル推進工
  5. 建設機械施工
  6. 土工
  7. 屋根ふき
  8. 電気通信
  9. 鉄筋施工
  10. 鉄筋継手
  11. 内装仕上げ/表装
  12. とび
  13. 建築大工
  14. 配管
  15. 建築板金
  16. 保温保冷
  17. 吹付ウレタン断熱
  18. 海洋土木工

技能評価試験は技術力を試されるので、不器用な人はもしかしたら合格できないかもしれません。
合格できなかった場合は雇用契約を解消せざるを得なくなることもあります。

しかしそんなリスクを気にしていてはいつまで経っても人手不足の現状を打開できません。
ですから私は1年間で雇用契約が切れてしまうかもしれないというリスクがある事を知ってはいますが、そこは目をつぶって外国人人材の雇用を推し進めています。

特定技能の取得を目指せる人材の雇用にかかる費用

給与の昇給なしと仮定した場合、おおまかに以下のような費用が掛かります。

特定技能1名を5年間雇用した場合にかかる費用
費用項目 単価 数量 金額
人材募集費用 70,000円 初回1回 70,000円
紹介料 50,000円 初回1回 50,000円
組合加入費 10,000円 初回1回 10,000円
入国及び入国入管手続き費 145,000円 初回1回 145,000円
ビザ更新手続き費 60,000円 毎年1回×5年 300,000円
監理費 22,000円 12か月×5年 1,320,000円
JAC加入費(出資証券) 100,000円 初回1回 100,000円
JAC加入費(月会費) 5,000円 12か月×5年 300,000円
受入負担金 13,750円 12か月×5年 825,000円
建設キャリアアップシステム 2,500円 10年間有効 2,500円
給与 1,150円 8時間×25日×12か月×5年 13,800,000円
賞与 200,000円 年2回×5年 2,000,000円
社会保険及びその他保険 25,000円 12か月×5年× 1,500,000円
支給品 100,000円 初回1回 100,000円
技能検定費 21,000円 1回 21,000円
合計 20,543,500円
  • 1人にかかる費用(1年あたり)・・・20,543,500円÷5年= 4,108,700円
  • 1人にかかる費用(1日あたり)・・・4,168,700円÷12か月÷25日= 13,695円

1人当たりにかかる費用は約410万円/年です。
1日あたりにすると約14,000円です。

私が以前試算した技能実習生1人当たりにかかる費用が1日あたり約11,000円だったことを考えると約1.3倍のコスト増となります。
本当はもっと原価を押さえておきたいところですが、そうも言ってられないのが現状です。

私が勤めている会社の外国人人材採用基準

私が勤めている会社では下記のような人材を採用することにしています。

  • 日本語力が高い人。日本語検定N4以上を取得している、もしくは日本での生活歴が3年以上ある人。
  • 自動車運転免許を取得している、もしくは取得することに納得していただける人。

今の人材不足の日本の将来を考えると、そう遠くない未来で外国人が現場監督員をしているのが当たり前になるだろうと予測しています。
現場監督員が外国人であるなら作業員も外国人であることのほうがコミュニケーションが取りやすいでしょうから、近い将来ベトナム人現場監督員⇒ベトナム人作業員⇒日本人作業員のような指示系統が普通になるのではないかと考えています。

すでにそのような指示系統が確立されていたり確立されそうになっている大手ゼネコン現場もあると伺っていますが、私が勤めている会社でもこのような指示系統に対応できるように技術力よりも言語力や知力を優先して採用活動を行っています。
また、最近では高所作業車の運転等が必要な作業も増えているので、一般車両よりも大きな工事用車両を運転できる中型自動車運転免許の取得に納得していただける方を採用の必須条件としています。

自動車運転免許は外国語に対応している自動車学校が多くあるので、日本語力がそこそこわかる人であれば問題なくパスできるはずです。
フォークリフトの操作や玉掛けのような技能講習で取得できる資格につきましても、外国語で実施している教育機関をネット検索で探せばそこそこ見つかるのであまり心配する必要はありません。

特定技能の在留資格者を受け入れるために少し手こずった事

私が勤めている会社では特定技能の外国人を受け入れるために満たしておく条件のほとんどはすでに満たしていましたが、満たしていなかった項目をクリアするのに少し手こずりました。

私が少し手こずった事
  • 定期昇給・昇給額・昇給条件の設定
  • JACに加入

なぜか定期昇給・昇給額・昇給条件の決まりがなかったので設定しました。
設定内容はかなりおおざっぱにしましたが、これでも問題はないそうです。

今回設定した定期昇給・昇給額・昇給条件
  • 定期昇給:なし(不定期)
  • 昇給月:8月(毎年の定期昇給ではなく業績による)
  • 昇給額:2,000円~10,000円
  • 昇給条件:技能の習熟・経験年数に応じて昇給を行う

JACへの加入について、建設技能人材機構で紹介されている受入企業を傘下に有する正会員団体一覧(39建設業者団体)の一つに電話をかけてみたところ、その企業が所在している都道府県で加入してほしいと伝えられました。
加入手続きが完了するまで約3週間かかりました。

ちなみに私が勤めている会社では左官の組合に加入したのですが、受入職種が左官以外であったとしても他の組合に加入する必要はないそうです。
行政書士にお願いして国土交通省に確認していただいたので間違いありません。

技能実習を経ていない外国人に特定技能を取得させたい場合の在留資格変更ルート

技能評価試験と日本語試験の両方を合格する必要があります。
それぞれの合格基準は以下の通りです。

特定技能合格基準
技能評価試験 建設分野特定技能1号評価試験または技能検定3級に合格
日本語試験 国際交流基金日本語基礎テストまたは日本語能力試験(N4以上)に合格

技能評価試験として認められている建設分野特定技能1号評価試験技能検定3級の試験内容は同じようで少し違うので、それぞれの実施機関でテキストを受け取ってください。

補足情報としまして、建設分野特定技能1号評価試験は関東圏で実施されていることが多い上に実施日がわかるのが約2か月前なので計画が立てづらいかもしれません。
技能検定3級は都道府県で年2回実施されている計画を立てやすいですが、地域によっては実施されていないところもあるので確認が必要です。

日本語試験として認められている国際交流基金日本語基礎テスト日本語能力試験の試験内容は全く違います。

国際交流基金日本語基礎テストは1種類しかありませんが、日本語能力試験はN1からN5までの5種類があります。
また、国際交流基金日本語基礎テストの試験日はどの地方でも大体毎月15日ぐらいありますが、日本語能力試験は年2回です。

特定技能の在留期間ってどれぐらいあるの?

現場作業が認められている建設業向けの在留資格【特定技能】の在留期間と関連情報は下記表の通りです。

特定技能の在留期間
在留資格 特定技能1号 特定技能2号
在留期間 最長5年 制限なし
軽作業 可能 可能
在留資格取得要件
  • 建設分野特定技能1号評価試験または技能検定3級に合格
  • 国際交流基金日本語基礎テストまたは日本語能力試験N4以上に合格
  • 班長としての一定の実務経験
  • 建設分野特定技能2号評価試験または技能検定1級に合格
在留資格取得難易度 やさしい(合格率約80%) 普通(合格率約40%)

特定技能1号の取得難易度は低いですが、特定活動から特定技能に移行する場合は技術習得までの時間が短いので注意が必要です。
というのも、特定活動の在留期間は長くても1年なので、雇用から数か月で技能検定3級程度の技術力を身につけさせて技能評価試験に挑んで合格させなければならないからです。

工事現場で物を運ばせるとか、熟練工のお手伝いのような仕事ばかりをさせていると、短期間で技術力を身に付けるのが難しくなります。
在留資格が特定活動の人向けに、短期間で技術を習得できるような環境を整えておくことが必要です。

特定技能1号を取得した後は、少し器用な人であれば在留期間の上限がない特定技能2号の取得を目指すことができます。
ただ、特定技能2号を取得できるような人材は引く手あまたでしょうから、継続雇用にコストがかかることを覚悟しておきましょう。

ベトナム人の性格って良いの?

良いです。
もちろん人それぞれでしょうが、私が今まで出会ったベトナム人は全員礼儀正しくて気遣いもできますし、こちらが教えたいことを受け入れて実践してくれるので職場でも自然に打ち解けています。

補足情報として、出入国在留管理庁に掲載されている2020年6月時点の情報では、在留外国人のうちベトナム人の比率が14.6%で3番目に多い数字となっています。
まだまだ中国人や韓国人のほうが多いですが、日本人にとってはベトナム人のほうが相性が良いでしょうから将来的には在留外国人の中で一番多い国籍になっている可能性が高いです。


はい、ということで、建設工事会社で特定技能の外国人人材を雇用したい場合は以下の条件を満たしておきましょう。

建設工事会社で特定技能の外国人を受け入れるために満たしておく条件
  • 建設業の許可を受けている
  • 建設キャリアアップシステムに登録している
  • JAC(建設技能人材機構)またはJACを構成する建設業団体に所属している
  • 建設特定技能受入計画の申請日前5年以内またはその申請日以後に建設業法に基づく処分を受けていない
  • 国内人材確保の取り組みを行っている
  • 1号特定技能外国人に対して同等の技能を有する日本人と同等額以上の報酬を支払い、技能習熟に応じて昇給を行うとともにその旨を特定技能雇用契約に明記している
  • 1号特定技能外国人に対して特定技能雇用契約を締結するまでの間に当該契約にかかる重要事項について、その外国人が十分に理解できる言語で説明している
  • 1号特定技能外国人の受け入れを開始、もしくは終了または受け入れの継続が困難になったときは国土交通大臣に報告をする
  • 1号特定技能外国人を建設キャリアアップシステムに登録する
  • 1号特定技能外国人が従事する建設工事において申請者が下請負人である場合は発注者から直接当該工事を請け負った建設業者の指導に従う
  • 1号特定技能外国人の総数と外国人建設就労者の総数の合計が常勤の職員の総数を超えない
  • 1号特定技能外国人に対して国土交通大臣が指定する講習を受講させる

外国人人材を雇用するためには色々な手続きが必要になりますが、これは裏を返せば人手不足になっている業界の労働環境が良くないことを表しています。
厳しいルールにしてしまうことで一定レベル以上の企業だけが外国人人材を雇用することを可能にしています。

また、外国人人材の労働環境を良くすることで日本人人材の労働環境も改善されるはずです。
諸手続きは大変ですが、外国人人材の雇用は多くの人にとってメリットがあるものだと私は考えます。

以上「コロナ禍で実施した建設特定技能の外国人人材の雇用手順と費用」でした。