「タイル張り技能士1級実技試験って何に気をつけたら良いの?」
私が気を付けたほうが良いと思えたポイントは下記の通りです。
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- 仕上がり精度
- 作業手順
- 制限時間
タイル張りという職種は仕上げ工事に分類されるので、品質向上のための試験であることを考えると、寸法精度や仕上がり精度は最も重要な採点項目です。
感覚的に、誤差1mm以内であれば減点なし、誤差4mm以上は話にならない、と思っています。
作業手順についてはタイル張りの実技試験問題に記載されている通りにしていれば減点はないはずです。
でも、面倒くさがって手順を飛ばしたり、手順を入れ替えたりすると減点になると思います。
制限時間については1分オーバーするごとにマイナス1点のような気がしています。
30分オーバーでマイナス30点ぐらいのイメージです。
さて、それではそれぞれの気を付けたほうが良いポイントについて詳しく解説していきます。
目次
仕上がり精度を高めるには下地が重要
タイル張り技能士1級実技試験では、壁の45二丁掛けタイル下地としてコンクリートブロック積み、壁の100角内装タイル下地として赤レンガ積み、床の100角外装タイル下地としてモルタル塗りがあります。
タイル張り作業を簡単にするために、どのタイル下地も誤差1mm以内になるように作っておきましょう。
コンクリートブロック積みの際に気を付けたほうが良いことは、1段目のコンクリートブロックをセメントの粉で締め固める事です。
私の場合、実際の実技試験用の架台が簡易的に作られていたので、床パネルを踏むとまあまあ沈みました。
普通にコンクリートブロックを積み上げると3段目を積むころには1段目が内側に倒れ込んできて、幅も高さも2mmぐらいは小さくなりました。
今回は合格できたので良かったのですが、もし今回が不合格だった場合はコンクリートブロックが内側に倒れ込んでくるリスクを回避するために、1段目のコンクリートブロックを積んでから高さと幅の調整をした後に空洞箇所にセメントの粉を入れてガチガチに締め固めようと考えていました。
作業手間は1分程度かかるかもしれませんが、2mmの誤差リスクを回避できると思えば安いものです。
赤レンガ積みに関しては赤レンガを積む前に床面と壁面に墨を出せるので、墨通りに積めば高い下地精度を確保することができます。
下地高さは高いより低い方を取った方が天端タイル張りの時に調整がしやすいです。
床タイル用のモルタル下地については私はパサパサモルタルではなく、一般的な柔らかさのモルタルを使用しました。
その理由は、練習の時にパサパサモルタル下地にセメントペーストをかけたら、ジュクジュクに膿んでタイルを張ることができなかったからです。
試験では一般的な柔らかさのモルタルを塗って高さ調整をした後にモルタル表面にセメントの粉をたっぷりと振り掛けて固めました。
この時に私は下地高さを確認せずに床タイルを張ってしまったので、仕上がり調整をするのにかなりてこずりました。
床タイルの下地は水平器を使って精度の良い下地高さを作っておくべきです。
実際の試験での反省を踏まえた私のおすすめの作業手順
練習の時と今回の試験では作業環境が違ったので、いくつか手間取ることがありました。
それらの反省点を踏まえて、私がおすすめする作業手順は下記の通りです。
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- 材料と道具の配置
- 材料の寸法確認
- 試験架台床面への墨出し
- 床墨にマスキングテープ張り
- 試験架台の養生
- 砂50kg程度のモルタル練り
- コンクリートブロック積み
- コンクリートブロックの1段目をセメントの粉で固める
- コンクリートブロック壁面への墨出し
- 壁墨にマスキングテープ張り
- コンクリートブロックシゴキ塗り
- 赤レンガを水に浸す
- 赤レンガ積み
- 赤レンガシゴキ塗り
- 45二丁掛タイル紙張りカット
- コンクリートブロック面タイル張り付け材塗り
- 45二丁掛タイル張り
- 45二丁掛タイルの一部の紙張り剥がし
- 内装用100角タイルカット
- 内装用100角タイルを水に浸す
- 900mmの水平器に内装用100角タイルの墨出し
- 内装用100角タイル張り
- 床モルタル塗り
- 床モルタルをセメントの粉で固める
- 床モルタル高さ調整
- 床用100角タイルカット
- タイルセメント塗布
- 床用100角タイル張り
- 45二丁掛タイル仕上がり寸法調整
- 床用100角タイル仕上がり寸法調整
- 清掃
材料と道具の配置
試験の作業スペースは限られているので、材料や道具を密集して置く必要があります。
私が受けた試験会場での1人分のスペースは、縦2m×横2m程度でした。
多少はみ出ても良いと言われたので、縦方向に材料を少しはみ出して設置しました。
材料の寸法確認
コンクリートブロックの精度については全国的にほとんど差はないと思いますが、赤レンガについてはかなり怪しいと感じています。
特に半マスの赤レンガの寸法精度は確実に確認しておいたほうが良いです。
実技試験問題の支給材料として記載されている赤レンガの半マス寸法は100mm×100mm×60mmですが、前回の試験の時は104mm×100mm×60mmと4mmぐらい大きかったので、縦目地にモルタルがなかなか入らなくて苦労しました。
今回の試験では半マス寸法が100mm×100mm×60mmだったので、精度良く赤レンガを積むことができました。
試験架台床面への墨出し
試験開始後に私がはじめにしたのは試験架台床面への墨出しです。
私が考えた必要最小限の墨出しは下記の通りです。
私は墨つぼを使わず、全て0.5mmのシャーペンで墨出しをしました。
定規代わりに900mmの水平器を使いました。
床墨にマスキングテープ張り
試験架台床面の墨より外側が汚れないように、墨の外側をマスキングしました。
コーキング用の青いマスキングテープははがれやすいので、粗面用の緑のマスキングテープか塗装用の黄色のマスキングテープがおすすめです。
試験架台の養生
最後の清掃を楽にするために、先程張り付けたマスキングテープの外側の試験架台床面が見えている部分を50mm幅のパイオランテープで養生しました。
試験架台を汚さないようにするためだけの養生なので、粘着力の弱いパイオランテープの方が良いです。
砂50kg程度のモルタル練り
準備されているふるい砂60kgの内、50kg程度をモルタル材料として使用しました。
セメントは25kgの内、5分の4ぐらい使用しました。
このぐらいの量があれば最後まで追い練りをしなくて済むはずです。
コンクリートブロック積み
特に解説するほどの事はなく、普通に精度よくコンクリートブロックを積みました。
コンクリートブロックの仕上がり寸法である横幅790mmと高さ600mmをスケールで測って確かめました。
コンクリートブロックの1段目をセメントの粉で固める
私の時は試験用の架台の床面のたわみがまあまああったので、コンクリートブロックを3段積んだときに内側方向に倒れてきて、調整するのが大変でした。
私は床面のたわみを想定していなかったのでしていませんが、コンクリートブロックの1段目をセメントの粉で固めたほうがたわみのリスクを回避できると思います。
コンクリートブロック壁面への墨出し
コンクリートブロック壁面に45二丁掛タイルと赤レンガの仕上がりの墨出しをしました。
私は墨つぼを使わず、水平器を定規代わりにしてシャーペンで墨付けをしました。
壁墨にマスキングテープ張り
コンクリートブロック壁面に出した墨の上に9mm幅のマスキングテープを張りました。
こうすることで墨をよけずに全面にタイルセメントを塗れるので、作業効率が上がります。
タイルセメントを塗った後にマスキングテープを剥がせば墨が現れます。
コンクリートブロックシゴキ塗り
コンクリートブロック壁面にタイルセメントをガリガリに塗付けていきます。
中塗り鏝のような硬い鏝で塗るときれいなシゴキ塗りができます。
レンガ鏝6杯分くらいのタイルセメントがあれば、45二丁掛タイル張りとレンガシゴキと床100角タイル張りで必要な量を賄えました。
赤レンガを水に浸す
コンクリートブロックのシゴキ塗りが終わったら赤レンガを水に浸します。
私はさっと水に浸す程度にしました。
その理由は、赤レンガがびしょびしょになると赤レンガ積みの時に架台がモルタルで汚れて掃除が大変になるからです。
赤レンガ積み
寸法精度良く、赤レンガを積み上げます。
100角内装タイルを張る反対側の面の目地にモルタルが行き渡るように気をつけます。
赤レンガシゴキ塗り
タイルを張り付ける赤レンガ面をタイルセメントでシゴキ塗りします。
天端は外側いっぱいまでタイルセメントを塗ると仕上がりの時の見た目が悪いので、5~6割程度塗付けるだけで十分です。
45二丁掛タイル紙張りカット
45二丁掛タイルの紙張りを張りやすいようにカットします。
また、曲がりも1個いらないので外しておきます。
コンクリートブロック面タイル張り付け材塗り
コンクリートブロック面にタイルセメントを塗付けます。
塗付けは硬い鏝の方が鏝圧をかけられるのでオススメです。
塗付け終わったら5mmのくし目鏝で縦向きにくし目をいれていきます。
くし目を縦に入れることで、45二丁掛タイルの裏足が変に喰いついて動かないというトラブルを避けることができます。
45二丁掛タイル張り
事前に紙張りカットしておいた45二丁掛タイルをタイルセメントが乾かないうちに手早く張り付けます。
曲がりとまぐさは裏足にタイルセメントを少し団子状にして塗付けてから張り付けます。
こうすることで高さ調整が簡単になります。
また、たたき板でタイルを軽くたたき込んで、重力で簡単に下がらないようにしておきます。
45二丁掛タイルの一部の紙張り剥がし
赤レンガに張り付ける内装100角タイルに干渉する箇所の45二丁掛タイルの紙張りを剥がします。
紙張りが強力に張り付いていることがあるので、十分に水湿しをしてから慎重に剥がします。
内装用100角タイルカット
内装用の100角タイルをカットします。
切り口を金剛砥石でささっと研いできれいにしておきます。
内装用100角タイルを水に浸す
内装用100角タイルは吸水性がとても高いので、びしゃびしゃになるぐらい水に浸しておきます。
こうすることで、団子張りにして赤レンガに張り付けても短時間であれば動かすことができます。
900mmの水平器に内装用100角タイルの墨出し
私は900mmの水平器に内装用100角タイルの墨出しをしました。
内装用100角タイル張りの際にこれを頼りにするためです。
内装用100角タイル張り
900mmの水平器を定木代わりにしてモルタルを塗付け、セメントの粉で固めて団子張りの土台にします。
あとは内装用100角タイルの裏面にモルタルを団子状にして塗付け、精度良く張っていきます。
事前に墨付けしていた水平器の墨を頼りにして張っていけば、コンクリート針を刺して水糸を張る必要もないので時間短縮になります。
団子張りをしたタイルの天端をセメントの粉で締め固めてから上段のタイルを張り付けます。
床モルタル塗り
900mmの水平器を定木代わりにして、端部のモルタルから塗付けていきます。
端部は2方向ありますが、架台に向かって横方向の端部から塗付けます。
端部のモルタルは斜めに塗付けておいて、セメントの粉で締め固めます。
それから平面のモルタルを塗付けます。
定木を使って精度良く、どちらかと言えば少し厚めに均します。
床モルタルをセメントの粉で固める
ウエットなモルタル表面にセメントの粉をばらまいて締め固めます。
水を吸ったセメントの粉を取り除いた後、水平器で下地の精度を確認します。
床モルタル高さ調整
締め固めたモルタルが高ければ削り、低ければ少し塗り足します。
塗り足した時にセメントの粉で再度しっかり固める事を忘れないようにしましょう。
床用100角タイルカット
床用100角タイルを押切でカットします。
私は押切のガイドを作っていたので、タイルの墨付け手間を省くことができました。
タイルセメント塗布
余分に作っておいたタイルセメントを床モルタル下地に塗布します。
タイルセメントが固くなっていた場合は水を入れて硬さの調整をします。
少しぐらい柔らかくても問題ありません。
床用100角タイル張り
タイルセメントが乾く前に、事前にカットしておいた床用100角タイルを手際よく張っていきます。
色間違えに気を付けて張り付けていきます。
全部張り付け終わったら、ある程度精度よく調整しておきます。
45二丁掛タイル仕上がり寸法調整
45二丁掛タイルの仕上がり寸法を調整します。
1級タイル張りの実技試験問題に記載されている寸法に従って、細かく計測しながら慎重に調整します。
床用100角タイル仕上がり寸法調整
45二丁掛タイルの寸法調整が終わったら床用100角タイルの仕上がり寸法を調整します。
目地の通り、45二丁掛タイルのまぐさ天端からの高さ寸法を精度良く調整します。
たたき板で少し叩けるぐらいがちょうど良いです。
また、水平器を使って勾配が付いていないか、水が溜まるようになっていないか確認しておきましょう。
清掃
45二丁掛タイルのまぐさ辺りから清掃していきます。
外側の清掃はそれなりにして、内側のタイル仕上げ面の清掃をしっかりしていきます。
タイルがセメントで汚れていたらスポンジでふき取るなどして、見た目のきれいさを整えます。
養生テープを剥がしてちり刷毛で仕上げて完成です。
制限時間内におさめるために工夫したこと
2024年は2023年度の時に比べて墨の数を差し引きで4本減らしました。
墨の数を減らしても課題作成に問題はありませんでした。
私が考えた必要最低限の墨出し図面は下記からダウンロードしていただけます。
また、100角内装タイルの団子張りの際に一般的にはコンクリート針を刺して水糸を張ると思いますが、私は水糸なしで施工する方法を選択しました。
水糸なしの団子張り施工は、まず100角タイルの支えとなる下地を作ってそれに100角タイルを載せて裏込めモルタルをセメントの粉で締めれば良いです。
1段目ができれば2段目は同じように施工するだけです。
練習の成果
今年は3回練習をしました。
3回とも全工程を通して実施しました。
1回目の写真は撮り忘れていました。
2回目はまあまあ、3回目ぐらいの出来栄えは自信ありです。
1回の練習につき、準備から片付けまで入れると軽く6時間を超えるので、練習をする気持ちを作ることが大変でした。
練習時期が6月後半から7月前半ということもあり、少し体を動かすと汗が噴き出てきてその汗が目に入って結膜炎になりそうだったので、おでこにタオルを巻いて練習していました。
墨出し寸法や作業手順を覚えないといけないの?
覚える必要はありません。
実技試験問題が書かれた用紙の空白欄に書き込むのはOKなルールだそうなので、私は墨出し寸法と作業手順を書き込んで、試験中はそれを見ながら作業をしました。
学科試験はどうやって勉強したの?
中央職業能力開発協会が監修している試験問題解説集と自作アプリで勉強しました。
私の勉強は時間30分でした。
難易度はかなり低いですが、1度通しで問題を解いて正答確認をしておかないと分からなかった問題はいくつかありました。
タイル張り技能士1級合格後にすると何か良いことがあるの?
下記のような事をするとメリットになります。
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- 建設キャリアアップシステムのレベル3の能力評価の条件を1つ達成でき、すべての条件を満たせばレベル3の評価がもらえる。
- 職業能力開発協会に有料の技能士カードの発行依頼をすると携帯可能なカードがもらえる。
- 48時間の職業訓練指導員講習を受講することで職業訓練指導員免許を取得することができる。
- 登録基幹技能者講習の受講条件の1つを達成でき、すべての条件を満たせば登録基幹技能者講習を受講できる。
建設キャリアアップシステムにはレベル1からレベル4まで4段階あり、タイル張り1級技能士資格を持っていればレベル3の評価条件の1つをクリアできます。
タイル張り1級技能士のほかに、職長安全衛生責任者教育と足場組立と自由研削砥石の特別教育があればCCUSレベル3の評価をもらえます。
レベル3の評価になるとCCUSカードがシルバーになるので、賃金査定や現場作業員としての地位確立に有利に働きます。
職業能力開発協会によってカード発行手数料は異なりますが、おおむね2000円ぐらいする技能士カードの発行依頼をすることで携帯可能なカード型のタイル張り1級技能士資格証明書をもらえます。
技能士資格を持った技能士本人の現場写真が必要な時に便利です。
タイル張り1級技能士資格があれば48時間の職業訓練指導員講習を受講して理解力テストに合格することで、職業訓練指導員免許を取得することができます。
職業訓練指導員講習は募集定員が少ないので、申し込みは早めにしておきましょう。
また、地域によっては職業訓練指導員講習が開催されていないところがあるので、事前に職業能力開発協会に問い合わせて確認をしておいたほうが良いです。
公共工事の入札をされている会社の技能者であれば、登録基幹技能者講習を受けて理解力テストに合格して得られる登録基幹技能者資格が経営事項審査における3点の技術力評点となります。
登録基幹技能者講習を受けるには実務経験10年以上、職長経験3年以上でタイル張り1級技能士の合格証と職長教育の修了証を持っている必要があります。
また、登録基幹技能者となればCCUSカードの評価レベルが4になって券面がゴールドになるので、さらに賃金査定や現場作業員としての地位確立に有効に働きます。
はい、という事でタイル張り技能士1級実技試験で気を付けたほうが良いことは、仕上がり精度、作業手順、制限時間の3つです。
結局のところ、全部に気をつける必要があるという事になります。
その中でも多少の優劣をつけて、「仕上がり精度は±1mmはOKにする」とか「墨出しは試験用の簡易的な墨にする」とか「団子張りには時間をかけて精度を高める」など、最終的には自分に合ったやり方を見つけるのが最適です。
建設工種の中でもタイル張り技能者は希少なので、資格取得者は今後の建設業界において有利に生きていけるのではないでしょうか。
以上、「2024年度の1級タイル張り技能士実技試験に合格!気を付けた3つの事」でした。