【パワハラ対策】技能実習生へのパワハラをやめさせる方法

「技能実習生に対するパワハラをやめさせるにはどうしたら良いの?」

日本人による技能実習生へのパワハラをやめさせるには、以下のような段階を踏むのがベターです。
もし、就業規則にパワハラに関する規定がある場合は、そちらに従ってください。

パワハラをやめさせるための第1段階
  • 事実関係の確認
  • 口頭注意
  • 謝罪文を書かせる
  • 始末書を書かせる
パワハラをやめさせるための第2段階
  • 警告書による書面注意
  • 誓約書へのサイン
  • カウンセリング
パワハラをやめさせるための第3段階
  • 異動
パワハラをやめさせるための最終段階
  • 解雇

加害者(以下行為者と呼びます)に対して注意や警告をするにしても、まずは大前提として事実関係を確認できている必要があります。
多分とか怪しいとかでパワハラの行為者を決めつけてしまうと別の問題に発展しやすいので、ここは細心の注意が必要です。

実は今、私が勤めている会社(以下弊社と表現します)で受け入れている技能実習生が日本人作業者からパワハラを受けていて大きな問題になっています。
以下、私が協同組合にパワハラ撲滅の協力依頼をしてパワハラをやめさせた体験談をもとに、詳しく解説していきます。

パワハラをやめさせるための第1段階

事実関係の確認

はじめにパワハラの被害者から相談を受けることがほとんどだと思います。
その際に、以下の事を確認しておきましょう。

被害者(以下相談者と呼びます)に対して事実関係の聞き取りをする際に確認しておくべきこと
  • 聞き取りの日時
  • 相談者の氏名
  • 行為者の氏名
  • パワハラを受けた時の状況
  • パワハラの状況証拠の有無
  • 会社に望む事
  • 現在の相談者の心身の状況
行為者に対して事実関係の聞き取りをする際に確認しておくべきこと
  • 聞き取りの日時
  • 行為者の氏名
  • パワハラを行った時の状況
  • パワハラに至った理由
  • パワハラの意識と謝罪意思の有無

聞き取りをする時に余計なアドバイスや指示は不要です。
まずは事実関係の確認が最優先されるべきであり、相談者のケアや行為者への処分はその後の事になります。
ここでは聞き取ることだけに専念してください。

聞き取りの際に便利な相談受付票や行為者聞き取り票につきましては、厚生労働省からの委託を受けて運営されているパワハラ対策相応情報サイト「あかるい職場応援団」でダウンロードすることができます。

相談者と行為者双方の事実関係の確認が終わったら、それぞれの聞き取り内容を比較して共通点と相違点を分けておきましょう。
あまりにも相違点が多ければ、パワハラによって生まれた両者の溝は相当深い可能性が高いです。

弊社の場合、聞き取り内容の相違点は少なかったのですが、相談者が受けた屈辱的な気持ちはかなり深刻でした。現在は何とか関係を修復しているように見えますが、それまでにかなりの時間と労力がかかりました。

口頭注意

行為者がパワハラを認めた、もしくは言い逃れができないような証拠がある場合は、企業の第1段階目の対応として口頭注意をしましょう。
会社の就業規則に則りパワハラに関する処分の内容や、パワハラ・セクハラ・レイハラ等の事例の説明、パワハラ防止法で明記されているパワハラの定義をしっかりと説明してください。

ほとんどのパワハラ行為者は自分がパワハラをしている自覚がありません。
とにかく事例を挙げて、行為者に心当たりはないか確認をしながら諭すように言い聞かせてください。

弊社のパワハラ行為者もパワハラをしている自覚がほとんどありませんでした。日常的に「バカ」「アホ」「国に帰らせるぞ」などと言った暴言を吐いていました。行為者の言動が一番最悪ですが、私も上司として気づけなかったところを反省しています。

口頭注意をする際に気を付けなければならないのが、行為者からの逆恨みです。
行為者としては相談者も悪いと思いがちなので、一方的に行為者に注意をしてしまうと「何で自分ばっかり責められなきゃいけないんだ!」という不満が生まれてしまいます。
ですから行為者を一方的にしかりつけるのではなく、行為者の言い分にも耳を傾けながら丁寧に言い聞かせてください。

謝罪文を書かせる

相談者に対する謝罪文を行為者に書かせましょう。
人情的には自分の言葉で作った文章の方が相手に響きやすいと思いますが、文章が苦手な方はどこかで見たことがあるような文章になっても差し支えありません。

私はネット検索で見つけた謝罪文を少し加工した以下のような文章を、謝罪文例として行為者に提案しました。

謝罪文

[謝罪相手の氏名] 様

この度は、私の配慮に欠く言動について、[謝罪相手の氏名]様に大変不愉快な思いをさせてしまいましたことを、深くお詫び申し上げます。

[謝罪相手の氏名]様のお気持ちを考えず、私の分別のない言動によって傷つけてしまい、弁明の余地がなくただただ深く猛省するばかりです。

[謝罪相手の氏名]様のお怒りを払拭することは難しいとは存じますが、今後は、自身の言動に自覚を持ち、二度とこのようなことがないようお約束いたします。

改めまして、[謝罪相手の氏名]様に大変不愉快な思いをさせてしまいましたこと、深くお詫び申し上げます。

本当に、申し訳ございませんでした。

[西暦年●月●日]
[行為者の氏名]

始末書を書かせる

会社に対する始末書を行為者に書かせましょう。
弊社の場合は行為者が経営者の身内だったので、パワハラ行為が発覚した後でも態度に甘えがあったのですが、会社に対しての始末書を書かせた結果、態度と考え方に改善が見られました。

始末書の内容について、本来であれば自分の言葉で作ったほうがもちろん良いですが、文章を作るのが苦手な方は私が考えた始末書例をご参考までにご利用ください。

始末書

[パワハラ行為発生場所]での仕事の際に、威圧的な言動で技能実習生の[被害者の氏名]さんに精神的・肉体的な苦痛を与えてしまいました。

私の不適切な言動により[被害者の氏名]さんに不愉快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした。

本書作成にあたって、[始末書を提出する上司の苗字+役職]をはじめとした関係者の方々から沢山のお叱りを受けました。自分自身、部下の指導法に至らぬ点が多々あったことを知り、どんな言動がパワハラに当たるのかを学ぶことができました。反省の気持ちを込めて、今回[被害者の氏名]さんが受けた苦痛の原因になっている私の言動を以下に列挙いたします。

[パワハラ行為1]
[パワハラ行為2]
[パワハラ行為3]

今になってみると「彼が成長するための指導」「彼とコミュニケーションを取るための会話」だと自分だけの尺度で判断して行っていたことが、結果的に彼に精神的・肉体的な苦痛を与える事になってしまいました。異論を唱えたり断ることができない弱い立場の相手に対する配慮が全くできていなかったと反省しています。

今後はこのような事を二度と繰り返さないと誓約し、心から謝罪いたします。[被害者の氏名]さんには大変不愉快な思いをさせてしまった事を心からお詫び申し上げます。また同時に会社の名誉も傷つけてしまい、社員の皆様にもご心配、ご迷惑をおかけしましたこと、改めてお詫び申し上げます。

二度と同じ不始末を犯さぬよう細心の注意を払う所存でございます。反省の証しとして本書を提出致します。本当に申し訳ございませんでした。

[西暦年●月●日]
[行為者の氏名]

パワハラをやめさせるための第2段階

警告書による書面注意

口頭注意をしてもパワハラ行為が無くならなかった時は、警告書による書面での注意をしてください。
警告書には就業規則に則った内容を記入してください。

警告書による書面注意は処分の内容を行為者に重く受け止めてもらうのが大きな目的ですが、作成者によっては内容が過激になることもあります。
行為者へのパワハラにならないように、警告書の内容には十分注意しましょう。

誓約書へのサイン

警告書による書面での注意と合わせて、パワハラ行為をしない・した時の責任を取る旨の誓約書を書かせた上で自筆サインをさせましょう。
誓約書自体に法的効力はありませんが、自分で誓いを立てて約束をさせることで、パワハラをしてはいけないという気持ちを持たせ続けやすくなります。

カウンセリング

口頭注意でパワハラ行為をやめられない人は心理的に何らかのトラブルを抱えている可能性が高いので、カウンセリングを受けさせるようにしましょう。
カウンセリングの有効性については私が検証していないのでハッキリしたことを言えませんが、受けないよりは受けたほうが改善されるはずです。

補足ですが、弊社の行為者は「病人扱いされるのが嫌だ」と言う理由でカウンセリングを拒絶しました。無理やり受けさせると今度はこちら側のハラスメントになってしまうので、慎重に物事を進めていく必要があります。

パワハラをやめさせるための第3段階

異動

口頭注意・警告書による書面注意をしてもパワハラをやめられない場合は、相談者を守るためにも行為者を異動させるしかありません。
ただ、異動先が受け入れてくれない・異動先でも同じような問題を起こす可能性が高いので、よく検討してください。

もし、異動させる場所が無いのであれば最終的には解雇となるでしょうから、解雇予告をする準備を進めていきましょう。

パワハラをやめさせるための最終段階

解雇

これまでの段階を正しく踏んでいれば、不当解雇には当たらない正式な解雇を言い渡せるはずです。
念のため、社会保険労務士に相談したほうが良いですが、問題が無ければ遠慮なく解雇をしてください。

行為者を野に放ってしまうと別の被害者を生んでしまう懸念もありますが、どうか無責任に思わず、企業としては仕方のない選択だと割り切ってください。
もし、罪悪感に悩まされるようなことがある時は、それこそカウンセリングで心理的なケアを受けたほうが良いでしょう。

日本人による技能実習生へのパワハラってどれぐらいあるの?

多方面を調査しましたが、技能実習生に絞った場合の具体的な件数は分かりませんでした。
近いデータとして、厚生労働省が発表している職場でのいじめ・嫌がらせの相談件数が、2019年は87,570件もあったそうです。
年々増加傾向にあります。

⇒厚生労働省 – 2019年総合労働相談件数

協同組合や技能実習機構にパワハラの実態をお尋ねしたところ、2020年はパワハラに関する相談や事案が2019年よりもかなり増えているような感じがするそうです。
協同組合のかたも言っていましたが、2020年に発生したコロナウィルスが影響している可能性が高いです。

緊急事態宣言以降、どこへ行っても自粛ムード・マスク着用・ソーシャルディスタンスが当然のように付いて回っていますが、活動的な人ほどこれらがストレスになっていると思います。
そのストレスが社会的弱者の方たちにパワハラと言う形で発散されて、負の連鎖になっているのではないでしょうか。

パワハラに限らずですが、あらゆるハラスメント(ロジハラとかいうのだけはよく分かりませんが)は許されるものではありません。
誰もが誰からも苦痛を受けない静かで穏やかな社会になる事を切に望みます。

パワハラを抑制するための法律ってないの?

あります。
改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)です。
2019年5月に成立されました。

2020年11月4日時点においてはすでに施行されています。
中小企業は2022年4月1日からの施行とのことですが、個人的には企業の大きさに関係なく今すぐにパワハラの防止に取り組むべきだと思っています。

さて、パワハラ防止法の主な内容は以下の3つです。

  • 事業主に対して雇用管理上必要なパワハラ防止措置を講じることを義務付けた。(第三十条の二)
  • パワハラを定義付けた。(第三十条の三)
  • パワハラを改善できない企業名を公表する。(第三十三条)

⇒パワハラ防止法の条文

今のところ企業への罰則らしい罰則規定は設けられていないように感じますが、パワハラを改善できない企業の名前を政府が公表することで労働者が集まりにくくなるでしょうし取引先が敬遠しだすでしょうから、場合によっては一般的な禁錮・罰金よりも大きな痛手を受けることになりそうです。

技能実習生にも原因は無いの?

技能実習生にパワハラの原因があるとかないとかを問題にする前に、何にしても技能実習生を原因とするのは間違いです。
例えば、技能実習生の物覚えが悪い・言葉が通じない・指示通りに仕事ができていない、なんていうのは指示する人や管理する人のフォローが足りていないだけです。

何度も反復して物事を覚えさせていますか?
たった数か月しか日本語の勉強をしていない技能実習生たちに、まさかとは思いますが方言で話しかけていませんか?

十分なフォローができないのであれば、技能実習生を監理している協同組合などの監理団体に協力を要請してみてください。
技能実習生への文句は直接本人にぶつけるのではなく、監理団体にぶつけるようにしましょう。


はい、という事で技能実習生に対するパワハラをやめさせるには、以下のような段階を踏んでください。

パワハラをやめさせるための第1段階
  • 事実関係の確認
  • 口頭注意
  • 謝罪文を書かせる
  • 始末書を書かせる
パワハラをやめさせるための第2段階
  • 警告書による書面注意
  • 誓約書へのサイン
  • カウンセリング
パワハラをやめさせるための第3段階
  • 異動
パワハラをやめさせるための最終段階
  • 解雇

最終的な落としどころは行為者を解雇する事にしていますが、できればそれを避けるようにしたいものです。
また、不当解雇とならないように各段階で細心の注意を払うようにしておきましょう。

以上、「技能実習生に対するパワハラをやめさせる方法」でした。