「雨で仕事ができなくても技能実習生に休業手当を支払わないといけないの?」
はい、建設業で雇い入れている技能実習生の場合は支払わないといけません。
「特定の職種及び作業に係る技能実習制度運用要領 -建設関係職種等の基準について-」の7ページに以下のように記されています。
- ○報酬の支払形態について
※技能実習生の自己都合による欠勤(年次有給休暇を除く)分の報酬額を基本給から控除することは差し支えありませんが、会社都合や天候を理由とした現場作業の中止等による休業について欠勤の扱いとすることは認められません。天候を理由とした休業も含め、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、労働基準法に基づき、平均賃金の 60%以上を支払う必要があります。また、休業する日について本人から年次有給休暇を取得する旨の申出があった場合、年次有給休暇としても問題ありません。
これらの基準は2019年8月26日に公表されており、適用されるのは以下に該当する技能実習生たちです。
2019年以前に技能実習計画の認定申請をしている技能実習生には適用されません。
- 「特定の職種及び作業に係る技能実習制度運用要領 -建設関係職種等の基準について-」が適用される技能実習生
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- 2020年1月1日以降に、新規の認定申請をする第1号技能実習計画
- 2021年1月1日以降に、新規の認定申請をする第2号技能実習計画
- 2023年1月1日以降に、新規の認定申請をする第3号技能実習計画
補足説明として、日本人労働者や在留資格が特定技能などの外国人就労者をはじめとした一般的な労働者や2019年以前に技能実習計画の認定申請をしている技能実習生の場合は、雨が降ることによって作業不可能になるのであれば、休業手当の支払い義務はありません。
ですが、もし雨が降っても作業可能な仕事があるのに休ませた場合は、休業手当を支払う必要があります。
休業手当については労働基準法に以下のような記載があります。
- 第三章 賃金
(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
ここでいう「使用者の責に帰すべき事由」とは、天災地変のように人力ではどうすることもできないような不可抗力以外の事を指します。
雨が降ることの予想はできても降らせなくすることはできないので、使用者の責に帰すべき事由には該当しない⇒休業手当を支払う必要はない、という解釈ができます。
ただし、前述したとおり、2020年以降に新規の技能実習計画の認定申請をした技能実習生に対しては会社都合や天候を理由とした現場作業の中止等による休業について欠勤の扱いとすることは認められないのでご注意ください。
目次
休業手当を支払う場合の計算方法
休業手当については平均賃金の60%以上を支払う必要があります。
ここで言う平均賃金は以下のように計算します。
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- 平均賃金 = 直近3か月の給与の合計 ÷ 直近3か月の日数
※臨時に支払われるような退職金・傷病手当・賞与は給与に含みません。
直近3か月の給与の合計が90万円で直近3か月の日数が90日だった場合、900,000 ÷ 90 = 10,000円が平均賃金となります。
実労働日数ならもっと平均賃金が上がるのですが、なぜか暦日数で平均賃金を算出するようなルールになっています。
正しい平均賃金の計算方法については、厚生労働省が公表している休業手当の計算方法をご参照ください。
休業手当と休業補償の違いとは?
休業手当は会社が支払うもので、休業補償は労働者災害補償保険が支払うものです。
名称は似ていますが内容は別物です。
休業手当は平均賃金の60%以上が支払われます。
休業補償は平均賃金の80%が支払われます。
休業手当は会社が払う賃金に分類されるので課税の対象になります。
休業補償は保険金としての補償なので課税の対象になりません。
雨で作業できない日を振替休日にして元々の休日を労働日にすることも可能
事前に技能実習生に承諾を得る必要はありますが、雨で作業できない日を振替休日にして、元々休日だった日を労働日にすることは可能です。
例えば、1週間の労働カレンダーが以下のように定められていたとします。
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
---|---|---|---|---|---|---|
休日 | 労働日 | 労働日 | 労働日 | 労働日 | 労働日 | 休日 |
水曜日に雨が降ることが事前にわかっていたので、以下のように土曜日の休日と入れ替えました。
労働者との合意が必要ですが、このように変更できれば天候による休業手当の支払を免れる事ができます。
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
---|---|---|---|---|---|---|
休日 | 労働日 | 労働日 | 振替休日 | 労働日 | 労働日 | 労働日 |
ただし、振替休日の運用はかなり面倒な部分が多いので、法的に正しくない処理をしてしまいがちです。
トラブルの火種になると余計に面倒なことになるので、労務に詳しい人材がいないのであれば振替休日の運用を控えたほうが良いでしょう。
雨が降って休ませた場合に技能実習生とそれ以外の人で扱いに差が生じるんじゃないの?
全くもってその通りで、雨で仕事ができなくて休みになるのは技能実習生だけではなくそれ以外の人たちも同じです。
技能実習生は休業手当が出て他の労働者は休業手当が出ないという事にしてしまうと、企業内で給与格差が生まれることになります。
労働基準監督署に確認をしたところ、このような不当な格差を設けることは容認できないので「特定の職種及び作業に係る技能実習制度運用要領 -建設関係職種等の基準について-」が適用される技能実習生がいる企業では全労働者に対して同じ措置を講じなければならない、との事でした。
同じ措置を講じなければならないことを示す文献としまして、労働基準法に以下のような記載がありました。
- 第一章 総則
(均等待遇)
第三条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
はい、という事で、2020年以降に新規で受け入れた建設業の技能実習生の場合は雨で仕事ができなくてもとして休業手当を支払わないといけません。
この件については「特定の職種及び作業に係る技能実習制度運用要領 -建設関係職種等の基準について-」に記載があります。
新しい基準が設けられた背景には、他の業種に比べて建設業という業種があまりにも労働環境が悪く、このままでは各国の政府が建設業に対して技能実習生の送り出しを認めなくなる恐れが生じたからではないでしょうか。
定められたルールをきちんと守って、誰からも認められる企業が沢山増えることを祈るばかりです。
以上「【技能実習生の休業手当】雨で仕事ができなくても支払い義務あり」でした。