「造船工事を請けたらインベントリを提出しろって言われたけど、どうやって作るの?」
ざっくりした説明になりますが、インベントリ(有害物質のデータ)の作成方法は以下の通りです。
後程詳しく解説します。
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- 化学物質管理マニュアルを作成していない場合は、「化学物質管理マニュアル」を作成する。
- 工事会社が「材料宣誓書の管理に関する供給者適合宣言(SDoC)」という書類を作る。
- インベントリ提出対象の船で使った材料の「材料宣誓書(MD)」を、材料メーカーに作ってもらう。
- 上記2で作成した書類の情報をもとに、PrimeShip GREEN/SRMというサイトで改めてSDoCの入力をする。
- 上記3で作成してもらった書類の情報をもとに、PrimeShip GREEN/SRMというサイトで改めてMDの入力をする。
目次
化学物質管理マニュアルの作り方
後述している「材料宣誓書の管理に関する供給者適合宣言(SDoC)の作り方」で化学物質管理マニュアルの文書番号が必要になるので、化学物質管理マニュアルを作成していない場合は、まずは専用のフォーマットを一般財団法人 日本海事協会(通称:ClassNK)のサイトからダウンロードしてください。
基本的にはダウンロードしたフォーマットに加筆・修正・押印をするだけで、化学物質管理マニュアルが完成します。
もし、がっつりしたマニュアルを作成したい場合は、経済産業省をはじめとした専門機関にお問い合わせください。
材料宣誓書の管理に関する供給者適合宣言(SDoC)の作り方
材料宣誓書の管理に関する供給者適合宣言は、英語にすると「Supplier’s Declaration of Conformity for Material Declaration management」となり、供給者適合宣言の部分に該当する単語の頭文字だけを抜き取って、SDoCと省略して表記されることがあります。
この記事では、以下SDoCと表記をする事にします。
さて、SDoCの作り方の説明です。
まずは専用のフォーマットをダウンロードしてください。
一般財団法人 日本海事協会(通称:ClassNK)のサイトでダウンロードできます。
ダウンロードできるSDoCのフォーマットはエクセルで作られており、ブック内のシートには以下2つの記入例があります。
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- 記入例1:社内の全ての製品に対する化学物質管理方法が同一の場合
- 記入例2:社内の工場毎に化学物質管理方法が異なる場合
記入例は供給者側の事情によってどちらかを選択することになります。
弊社の場合は小売り・卸売りをしており、社内に工場はないので記入例1の「社内の全ての製品に対する化学物質管理方法が同一の場合」を選択しました。
ちなみにですが、記入例1と2で記入する内容が異なる点は以下の通りです。
異なる点 | 記入例1 | 記入例2 |
---|---|---|
発行者の名前 | 会社名 | 会社名+工場名 |
宣言の対象 | 造船所に納品するすべての材料を列記 | その工場で製造されている材料だけを列記 |
発行者の化学物質管理責任者の署名 | 会社名 | 会社名+工場名 |
発行者の名前を「アストロタイル株式会社」という架空の会社名にした場合、記入例1で表すと「ASTROTILE Co., Ltd」のようになります。
記入例2は工場名が必要になるので、「アストロタイル株式会社 静岡第2工場」とした場合は「ASTROTILE Co., Ltd Shizuoka second plant」のようになります。
宣言の対象を記入例1で表す場合は社内のすべての製品を記入しなければならないので、弊社の場合は「Cement(all type), Aggregate(all type), Tile(all type), Cement-based adhesive(all type), Elastic Bond(all type), Water-based adhesive(all type), Water absorption adjuster(all type)」としました。
記入例2は工場ごとで製造・管理している製品が対象になります。
完全な余談になりますが、弊社が記入した宣言の対象の製品名の和訳は以下の通りです。
専門用語ばかりなので、意味については気にしないでください。
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- Cement = セメント
- Aggregate = 骨材
- Tile = タイル
- Cement-based adhesive = セメント系接着剤
- Elastic Bond = 有機系接着剤
- Water-based adhesive = 水性接着剤
- Water absorption adjuster = 吸水調整剤
発行者の化学物質管理責任者の署名につきましては、前述している発行者の名前と同じ要領です。
記入例1の社内の全ての製品に対する化学物質管理方法が同一の場合に該当するのであれば会社名だけを、記入例2の社内の工場毎に化学物質管理方法が異なる場合に該当するのであれば会社名+工場名を記入してください。
化学物質管理マニュアルの文書番号について
SDoCの第5項は「製品に含まれる化学物質の管理に関する会社方針」となっており、そこに化学物質管理マニュアルについての情報を記入するようになっています。
始めに記入する文書番号という項目がありますが、ここには自社で取り決めた番号を入力します。
どんな番号でも良いですが、できるだけ管理しやすい形式が望ましいでしょう。
SDoCのフォーマットの記入例にもあるように、「会社名の省略-QCM-発行西暦」にしておくと管理しやすいです。
材料宣誓書(MD)の作り方
日本語では材料宣誓書ですが、英語では「Material Declaration」と呼ばれており、アルファベットの頭文字からMDと省略されていることもあります。
この記事では、以下MDと表記をする事にします。
さて、このMDの作り方ですが、まずは専用のフォーマットをダウンロードするところから始めましょう。
造船所サイドから、エクセルのようなスプレッドシートに書き込めるものをいただければそれが一番良いですが、いただけない場合はインターネット検索でもMDのフォーマットはヒットします。
⇒MDをダウンロードできるサイト
MDのフォーマットを材料メーカーに送って、所定の項目に記入してもらいましょう。
記入方法は次の通りです。
MDの記入方法
MDの記入方法の公式資料は、一般財団法人 日本船舶技術研究協会さんが発行している材料宣誓書(MD)、供給者適合宣言(SDoC)- 作成の手引き –です。
ただし、インターネットでダウンロードできるMD記入のフォーマットとは内容が少し異なりますので、非公式ではありますが私がMDの記入方法について解説します。
MDには、大きく分けて以下の10項目を英語表記で記入します。
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- 宣誓の日付
- 材料宣誓書特定番号
- 供給者(回答元)情報
- その他の情報
- 製品名
- 型式番号
- 納品量
- 製品情報
- 閾値を超える物質の存在
- 有の場合、物質の質量
- 有の場合、使用部品及び使用部位の情報
それでは各項目番号の解説をしていきます。
1.宣誓の日付
宣誓の日付を西暦で記入してください。
年月と月日の間をスラッシュで区切りましょう。
2020/1/24
2.材料宣誓書特定番号
材料宣誓書特定番号は誰かが発行してくれるものではなく、MD記入者側で記入します。
使用が禁止されている文字などの制約はありませんが、半角英数字だけで構成しておくと管理がしやすいでしょう。
例えば、タイル用接着剤のINAXワンパックボーイR-V2スーパー グレーのMDを作る場合、私なら以下のような材料宣誓書特定番号にしておきます。
MD_INAX_EGR-V25P-G3_20200124
始めのMDの部分はMDであることを意味します。
次のINAXはメーカー名です。
EGR-V25P-G3は品番です。
正確には「EGR-V25P/G3」のように間にスラッシュが入りますが、スラッシュは何かと不具合の原因になることがあるので、私はスラッシュをハイフンに変更しました。
最後の20200124は作成日付です。
西暦は4桁、月は2桁、日も2桁にしておくと、並び替えをするときや日付検索をする時に便利です。
3.供給者(回答元)情報
供給者情報はSDoC情報と同じにしなければなりません。
弊社の場合は弊社名で材料宣誓書の管理に関する供給者適合宣言(SDoC)をしているので、供給者は弊社となります。
弊社の情報を一社員の私がここで公開するわけにもいきませんので、以下のように架空の会社名で記入例を作りました。
MD記入の際、電話番号に国際番号を加える点にご注意ください。
Company name / 会社名 | ASTROTILE Co., Ltd (アストロタイル株式会社) |
---|---|
Division name / 部署名 | Quality Control Division (品質管理部) |
Address / 住所 | 18-28-38 Tsurumaicho Shimizu-ku, Shizuoka-shi, Shizuoka-ken, Japan (静岡県静岡市清水区鶴舞町18-28-38) |
Contact person / 担当者 | Tatsuya Kataoka (片岡 龍也) |
Telephone number / 電話番号 | +81-54-432-81527 (054-432-81527) |
Fax number / Fax番号 | +81-54-432-81528 (054-432-81528) |
E-mail address / Eメールアドレス | kataoka.tatuya@example.com |
SDoC ID no. / SDoC特定番号 | SD_ASTROTILECOLTD_2020_0114 |
4.その他の情報
MDに記入項目が無いけれど、特筆しておきたい情報につきましては、その他情報に記入してください。
Scheduled to be discontinued on March 31, 2020. (和訳:MDに登録する材料が2020/3/31で廃番になる予定)
5.製品名
製品名を英語で記入します。
例として、タイル用接着剤のINAXワンパックボーイR-V2スーパー グレーの場合は以下のようになります。
INAX ONE PACK BOY R-V2 SUPER
6.型式番号
型式番号を英語で記入します。
例として、タイル用接着剤のINAXワンパックボーイR-V2スーパー グレーの場合は以下のようになります。
EGR-V25P/G3
7.納品量
その製品1個当たりの量と単位を記入します。
例として、タイル用接着剤のINAXワンパックボーイR-V2スーパー グレーの場合は、1個当たり2kgなので以下のようになります。
2 kg
8.製品情報
MDに記入する製品の概要情報を入力しましょう。
例として、タイル用接着剤のINAXワンパックボーイR-V2スーパーの場合は以下のようになります。
Adhesive for tiling
INAXのワンパックボーイR-V2スーパーはタイル用の有機系接着剤なので、「Adhesive for tiling」としました。
英語表記が難しいと考えているかたは、「Adhesive, For tiling, Bonding, Epoxy type, Organic type」のようにカンマ区切りをしたキーワードの羅列でも良いと思います。
9.閾値を超える物質の存在
シップリサイクル条約の付録1及び付録2に記載されている物質が、閾値を超えていればYes、超えていなければNoで回答してください。
現在市場に出回っている日本製の製品であれば、そのほとんどは閾値を超えていないはずですが、念のために必ずメーカーに確認をしてください。
アスベスト・・・No
ポリ塩化ビフェニル・・・Yes
10.有の場合、物質の質量
閾値を超える物質の存在がNoであればこの項目をスキップできますが、Yes、つまり有になった場合は、閾値を超える物質の質量を記入する必要があります。
ポリ塩化ビフェニル・・・35 g
11.有の場合、使用部品及び使用部位の情報
MD登録製品が「9.有の場合、物質の質量」に該当した場合は、使用部品と使用部位の情報を記入してください。
部品と部位のどちらか片方にしか適用されていない場合は、その一方の情報を記入するだけでも差し支えありません。
ポリ塩化ビフェニル・・・Tiling to bathroom
ポリ塩化ビフェニルが閾値を超える材料を浴室のタイル張りに使ったという事で、「Tiling to bathroom」としました。
ただ、誤解の無いように申し上げますが、ここで表記しているものは記入例であり、INAXのワンパックボーイR-V2スーパーにはポリ塩化ビフェニルは含まれておりません。
PrimeShip-GREEN/SRMの使い方
大抵の場合、造船所からの依頼でシップインベントリを作成されると思いますので、造船所サイドがアカウントを準備してくれているはずです。
もし、まだアカウントが無いのであれば、PrimeShip-GREEN/SRMのトップページから「新規組織登録」を選んでアカウントを作ってください。
アカウント情報を入力する際、組織名や住所を英語表記にする必要がありますのでご注意ください。
SDoCの登録方法
SDoCの登録方法は以下の通りです。
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- PrimeShip-GREEN/SRMにログインする。
- ページ左上の「MD/SDoC▼」タブを開いてSDoC登録を選択する。
- ※が付いた入力必須項目をすべて入力して、入力が必須ではない項目の記入にも問題が無ければ、右下の登録を選択する。
MDの登録方法
MDの登録方法は以下の通りです。
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- PrimeShip-GREEN/SRMにログインする。
- ページ左上の「MD/SDoC▼」タブを開いて事前MD登録を選択する。
- ※が付いた入力必須項目をすべて入力して、入力が必須ではない項目の記入にも問題が無ければ、右下の登録を選択する。
MDの内容は、材料メーカーに作ってもらったMDを参考に入力してください。
MD以外にも材料カタログや安全データシートがある場合は、関連文書としてアップロードしておくと良いでしょう。
関連文書としてアップロードしたい場合は5MB以下のPDFにした後、ページ最下部の「新規追加」から操作してください。
もし、PDFのサイズが5MBよりも大きくなる場合は、PDFの圧縮をするなどして対応してください。
そもそもインベントリって何?
日本語ではインベントリと言っていますが、正しくは「Inventory of Hazardous Materials(略称:IHM)」の事を指しており、これを和訳すると「有害物質のリスト」という意味になります。
つまり、インベントリとは有害物質のリストの事なのです。
その船を作るために使われた材料に、どんな有害物質がどれくらい含まれているのかを取りまとめて保管しておかなければなりません。
これは日本が同意しているシップリサイクル条約で義務付けられています。
材料メーカーにMDを作れないって言われたけど、そんなときはどうやって対処すれば良いの?
私もはじめて材料メーカー側にMDの作成依頼をした時に、「そんなものを作ったことがないからすぐに対応することは無理」と、10社ぐらいの内の半分から言われました。
まずは上司に稟議書を提出してそれから検討する、みたいな生ぬるい事を言うメーカーもあったので、きちんとMDが出てくるのかどうかも怪しかったです。
そこで私は、すでにご提出いただいた他メーカーのMDを、記入見本として全メーカーに転送しました。
記入見本となっていたのが「宇部興産株式会社」さんのMDで、宇部興産さんはUDシップレベラーをはじめとした造船工事でたびたび使用されているセメント系材料の老舗メーカーです。
宇部興産さんの信頼度は高かったようで、こういう書き方で良いなら、という事で全メーカーからMDをいただくことが出来ました。
今回、私が問い合わせたメーカーはすべてMD作成をしていただけましたが、もし、本当にどうしてもMDを作成できないというメーカーが出てしまった場合、今後も造船工事を続けていくつもりがあるのなら別メーカーに変えることを検討したほうが良いでしょう。
インベントリを提出しなかったらどうなるの?
おそらくですが、造船所から相当なお叱りと指導を受けると思います。
造船所はお客さんからの依頼があった時にインベントリを作成しているそうなので、お客さんに求められている書類が提出できない以上、材料供給者にプレッシャーを与えてくるのは必然です。
最悪の場合、造船工事業者から外されることもあるかもしれません。
そのようにならない為にも、インベントリを提出できるような状態を整えておきましょう。
さて、インベントリの作成方法についてのおさらいです。
インベントリへの記入は全て英語でなければならないという事と、PrimeShip GREEN/SRMというサイトが使いづらいのが厄介ですが、以下の項目を事務的に進めていくしかありません。
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- 化学物質管理マニュアルを作成していない場合は、「化学物質管理マニュアル」を作成する。
- 工事会社が「材料宣誓書の管理に関する供給者適合宣言(SDoC)」という書類を作る。
- インベントリ提出対象の船で使った材料の「材料宣誓書(MD)」を、材料メーカーに作ってもらう。
- 上記2で作成した書類の情報をもとに、PrimeShip GREEN/SRMというサイトで改めてSDoCの入力をする。
- 上記3で作成してもらった書類の情報をもとに、PrimeShip GREEN/SRMというサイトで改めてMDの入力をする。
SDoCとMDについては、PrimeShip GREEN/SRMに1回でもアップロードしておけば、あとは繰り返し使えるのでそれほど苦にはなりません。
まずは1回、インベントリの作成を頑張ってみてください。
以上、シップリサイクル条約に係るインベントリの作成方法、でした。